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2020年8月18日火曜日

【検証】『T島事件』の裏側

詠坂雄二『T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか?』(光文社文庫)をより深く読むお手伝いです。



『T島事件』作品内で言及されていることが、ほかの詠坂作品などで、何のことを言っているのか判る範囲で拾い上げました。現実世界ともリンクしている部分もあります。
この本単体でも充分楽しめますが、裏を知っていればより楽しめると感じます。


『T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか?』は、2016年の詠坂雄二が2005年に起こった「T島事件」について小説に書き起こしたという体裁です。


以下ネタバレがありますので、作品読了後にご覧ください。



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「前説」


《彼が起こした別の事件もいずれ書かされるだろう(略)三年後くらいになるのでは》(p3)
→『遠海事件 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?』のことです。この本は、現実世界では2008年刊行ですが、作品内では2019年の刊行です。

《作者はちょっとした縁から彼女を知っており、彼女が手がけた事件を調べたこともあれば、その活躍を間近で見たこともある。》(p3-4)
→手がけた事件とは、『ドゥルシネーアの休日』のことでしょうか。また、詠坂と月島凪との出会いや、彼女の活躍を間近で見たことについては、未だ小説化されていません。

《月島凪にとり、二十代最後の年であったという。》(p9)
→月島凪は1976年生まれです。



「一章 孤島」


《「黴の生えた意見にならざるを得ないね!」》(p14)
→綾辻行人著『十角館の殺人』のオマージュですね。吹き出してしまいました。

《関東圏を騒がしてる爆弾魔》(p59)
→当時13歳の山村朝里のことです。2005年11月下旬頃に逮捕されています。山村は1992年10月生まれ、13歳で5人を殺害したと『ドゥルシネーアの休日』に書かれているので、2005年10月から11月のあいだに犯行を重ねていたのでしょうか。
『ドゥルシネーアの休日』は、「T島事件」発生の5年後、2010年の話です。もっと知りたい方は全作品を一つの時系列にまとめた一覧表をご覧ください。

《あれは月島の犬だなどと言う。》(p69)
→藍川慎司のこと。犭(けものへん)というストリートファイトで特に強かった三人のうちの一人です。参加者は動物に準えた名前で呼ばれてたとのことです(『インサート・コイン(ズ)』)。



「七章 訪島」


《「判ってるねー慎司君。さすがは元獣」》(p296)
→1997年ごろまで犭に参加しており、「泥犬」と呼ばれていました(『インサート・コイン(ズ)』)。



「補遺」


《「二〇〇九年の春です。凪さんの失踪がそのころで」》(p309)
→「金正日をひっぱたきに行く」と言い、月島前線企画を畳みました(『ドゥルシネーアの休日』)。

《そのとおり凪さんは帰って来てくれましたけど、》(p309)
→2013年頭に北朝鮮より帰国。

《月島線企としての活動が再開することはありませんでしたね……》(p309)
→2013年の帰国後すぐに爆弾魔にかかりっきりだったとのことなので、月島凪個人では(もしかしたらというかほぼ間違いなく藍川と一緒に)、活動はしています。
ちなみにこの爆弾魔、『ナウ・ローディング』のみで触れられており詳細は不明です。ただ、手がかりとなりそうなのは『ドゥルシネーアの休日』のラストでしょうか。

《「どこかの神様は自分に似せて人をこしらえたというけれど」》(p329)
→これは、判断が難しいんですが、『乾いた屍体は蛆も湧かない』(講談社ノベルス)のことを指しているのではないでしょうか。

《京都で言われたんですよ。張った伏線はちゃんと文章にして回収しなさい。熱心な読者の考察任せにせずにって。》(p329)
→綾辻行人との対談より。雑誌「ジャーロ」50号に掲載。

《「文字の取捨選択は生殺与奪のメタファーでもある。―でしょう?」》(p331)
→これの出どころは判りませんでした。判り次第ブログに載せます。

《「孤島における鏖殺事件の真相は、壜詰にされ海へ放られるものと決まっていますから。》(p331)
→『そして、誰もいなくなった』『十角館の殺人』のことですね。

《夢野久作へのリスペクト》(p343)
→『壜詰の地獄』

《小説の題名》(p343)
→「T島事件」、言うに及ばずですね。ちなみに『十角館の殺人』の舞台は角島(つのじま)です。



「解説」


《『ドゥルシネーアの休日』(二〇一〇年)に至っては、物語の中心人物であるにもかかわらず、またしても月島は登場しなかった。》(p351)
→『ドゥルシネーアの休日』本編中、誰かが語る中でしか月島凪は登場しないと思わがちですが、テレビ画面越しに月島凪は登場しています。そういうことを言ってるんじゃないよと解説者に言われそうですが……。


ご意見などあれば是非お願いします。
ご覧いただきありがとうございました。

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